芸術療法(Art therapy)

芸術療法とは

芸術療法は、さまざまな芸術活動(絵画、箱庭、コラージュ、音楽等)を通じて心身の健康を回復することを目的とする心理的治療全般のことを指しており、幅広い内容を含んでいます。  
心理面接室の中だけでなく、福祉現場や教育現場、司法現場に至るまで、様々な場面で、多様な人々を対象に実施されています。

芸術療法の種類

芸術療法には、様々な技法が含まれていますが、その中でも、著名なものとしては以下のようなものが挙げられます。

・絵画療法 ・箱庭療法 ・コラージュ療法 ・音楽療法 
・舞踊療法 ・詩歌療法・小説療法 ・園芸療法 

上記の他にも、粘土(これで焼き物を作ることもある)や、ウッドチップスなどを使った芸術活動が行われることもあります。

芸術療法の歴史

芸術療法と言う言葉が用いられるようになったのは、イギリスの芸術家ヒルが、結核サナトリウムにおける生活療法の一環として絵画を用いてからであると言われています。

また、分析心理学の創始者であるカール・ユングも、現代の芸術療法の成り立ちに深く関わっています。
彼は、自身の師ともいえる、精神分析の父たるジグムント・フロイトとの決別により、精神的危機に陥りましたが、その際に「マンダラ」を含む様々な絵画を描き、
精神的な癒しを体験したと言います。
そして、多くの患者の治療場面で、絵画を用いました。

その後、アメリカでは、フロイト派とユング派の教育分析を受けたマーガレット・ナウムブルグが、
絵画を治療的に用いています(有名なものとしては「スクリブル法」)。
彼女はアメリカでのアートセラピーのパイオニアとして知られています。

更に、「世界技法」のマーガレット・ローエンフェルトに教えを受けたドラ・カルフがユングの教えを導入して「砂遊び療法」を創始しました。

日本では、カルフの砂遊び療法を河合隼雄が「箱庭療法」として、芸術療法研究会を足場に導入しました。
その後、日本でも、中井久夫の「風景構成法」を初め、多くの技法が開発されていくこととなりました。

芸術療法は治療にどのように役立つのか

芸術療法が精神的な健康の回復にどのように役立つのかということは数多く論じられてきました。
様々な技法、立場があるため、一概に述べることは難しいでしょう。

しかし、しばしば述べられることとしては、絵や音楽など、芸術・表現それ自体が人に対して治癒的に作用するということは指摘されているようです。

そこでは、表現がストレス発散になるというレベルのものから、鬱積していた感情の解放や、表現を通じて自分や問題についての洞察なども挙げられます。

また、治療者・セラピストは、その場で表現されたものを通して、患者・クライエントや面接室内で起きていること(言語的には浮かび上がってこないようなものについても)の理解を深めることもできるでしょう。
それが、より深い、治療者・セラピストと患者・クライエントの交流を促すこともあります。

芸術療法の危険性

芸術は、しばしば美しいもの、あるいは楽しいものとされますが、創造性が高まると,ときに非現実的なものや破壊的なものをもたらすこともあります。

例えば、飯森眞喜雄(2000)は、自我の力(ここでは、現実と非現実、自我と他我等を区別する力)が弱まっている際には、自由画や箱庭といった退行を促すような芸術療法は禁忌とも述べています。

芸術療法の導入を恐れ過ぎることは問題ですが、「とりあえず絵を描かせてみよう」というような安易な導入は慎まれるべきと考えられています。

芸術療法の非言語性

芸術療法の大きな特徴としては、「非言語的な表現」が多分に含まれることが挙げられます。

人はいつでも自分の心で感じているものを簡単に言葉にできるわけではありません。
いずれ言葉にするときが来ることもあるかもしれませんが、ときには、言葉ではなくイメージを用いることが治療上有効なこともあります。
これは、言葉を上手に使えない子どもを対象とした「遊戯療法」などにも共通する考え方と言えるでしょう。

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