分析心理学(ユング心理学)

分析心理学(ユング心理学)

ユングはフロイトの弟子でしたが、大きな影響を受けながらも訣別し、分析心理学を創始しました。
分析心理学は、スイスのユング研究所で日本人として初めてユング派分析家の資格を取得した河合隼雄によって、日本で広く知られるようになりました。

ユングは言語連想テストという方法を用いて、実証的に無意識の心のプロセスを研究しました。
その中で生まれた概念で、今でも一般的に使用されている言葉に「コンプレックス」があります。
コンプレックスとは無意識の中にあり、何らかの感情によって一つのまとまりになっている内容の集合体のことです。
例えば父親から暴力を受けた経験から、“男性”との関わりを回避するようになるかもしれません。
このように、核となる経験があり、その経験と似た体験が雪だるまのようにまとわりついて形成されます。
クライエントが内面との対決によってコンプレックスを自我に再統合していく場合、コンプレックスは建設的な意味を持つとされます。

分析心理学の特徴

分析心理学の特徴的な心の捉え方として、無意識を「個人的無意識」と「集合的(普遍的)無意識」とに大別します。
個人的無意識には、個々人の固有の体験や記憶が貯蔵されており、一方その下層にある集合的無意識には、人類や動物をも含めて代々受け継がれてきた内容が含まれており、人類全体で共有される普遍性の高い無意識領域であるとしています。
これらの無意識は意識に対して「補償」の機能を持っており、意識によって抑圧されたり排除されたりした内容が、夢やイメージ、症状などの形で表現されます。
そのように意識に上った内容の中で最も創造的な面が認められるものを「象徴」とよびます。
ユングはこの象徴の機能を促進することによって、その人の持っている治癒力を促進することができると考えました。

また、1920年に出版した『タイプ論』では、フロイトやアドラーの考えを踏まえ、人間の性格を内向-外向という一般的態度や、思考-感情、感覚-直観という機能から論じました。
この「外向的」、「内向的」といった言葉は、現代でも用いられています。

分析心理学の心理療法とその考え方

ユングは、人間には安定した状態を崩してまでも、より高い次元の統合性を求める傾向があるとし、
また、その統合(「全体性」)へと向かう過程を「個性化の過程」と呼び、人生の究極の目的であるとしています。
分析心理学における心理療法は、セラピストとクライエントがこの個性化を共に体験するものであると考えます。
心理療法の場面において、ユングは夢の研究を発展させていきました。
夢は意識と無意識の相互作用の結果として現れたものであり、その内容を連想などによって検討しながら自我が統合・発展していくとされます。
その際、セラピストはクライエントの夢と似たテーマをおとぎ話や神話などによって、夢の意味を豊かにしていきますが、これを「拡充法」といいます。

こうしたユングの理論を取り入れた心理療法では、夢だけではなく箱庭や描画といった、言葉だけではない表現も取り扱うことがあります。
例えば頻繁に同じような夢を見たり、絵画や造形、映画や物語といった、文化的・芸術的表現に違和感なく触れることができる方にとっては、とても有益な方法であると言えるでしょう。

日本ではユング派分析家協会が主として訓練・教育行い、資格も認定しています。
資格の認定には膨大な訓練が必要であり、資格取得者は限られていますが、「臨床心理士に出会うには」等のサイトからユング派分析家を検索することができます。
ただし、資格を持たなくとも、ユングの理論に基づいた臨床を行っている専門家(いわゆるユング派)は複数おり、
訓練を受けた上で夢分析や箱庭療法、描画等のアートを用いた心理療法が実施されている場合があります。
また、そうした特別なツールを使わなくとも、現在起きている問題についてユングの用いた視点を持って取り組むことで、よりその人らしい生き方を模索していくことが可能です。
職場、家族、恋人、友人といった対人関係、あるいはこれまでの人生の中で“何度も同じ問題・悩みが出てきた”と感じられた方、一度検討してみていただければと思います。
また、医療機関にかかられている方の場合、主治医にご相談いただいた上で、受けていただくことになります。

参考書籍

◎ 河合隼雄『ユング心理学入門』(培風館)

1960年代に書かれたにもかかわらず、何度読んでもユング心理学についての発見がある稀有な本です。ご興味のある方にはぜひ読んでいただきたい一冊です。

◎ 山中 康裕(著, 編集)『心理学対決!フロイトvsユング (史上最強カラー図解)』(ナツメ社)

一見よくある一般書ですが、編著がユング心理学の重鎮でもある山中康裕先生。また共著者も錚々たるメンバーで、フロイトとユングを比較しながら読めるとてもバランスの良い書籍です。

◎ カール・グスタフ・ユング(著), 河合 隼雄(翻訳)『人間と象徴―無意識の世界』(河出書房新社)

C.G.ユングによる最晩年の著書(内容の大半は弟子たちによる)で、集大成のひとつとも言えます。一般向けに比較的やさしい言葉で書かれており、専門家でなくてもある程度読めるのが特徴。ここからユング心理学に入ってみるのもおすすめです。

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