防衛機制

防衛機制とは

自我は、エスから湧き出てくる欲求や感情、超自我の命令によって生じる罪悪感、不安に対して、さまざまな防衛機制を用いて自分のこころ全体のバランスを保っているといわれています。
自我の防衛機制によって、私たちは不安を処理しながら、社会生活を過ごすことができます。
防衛機制にはいくつもの種類があり、人によってパターンや特徴は異なります。

防衛機制の歴史

フロイト(Freud,S)は精神疾患がを抱えた患者を治療していく中で、過去に傷ついた体験や、自分にとって受け入れがたい感情を意識しないで済むように、自我の働きによって無意識に抑え込んでいることを発見し、こうした自我の働きを「防衛機制(defence mechanism)」と呼びました。
また、受け入れがたい感情を無意識に抑え込んでいる代償として、不適応や症状が現れていることにも気付き、自由連想法(※)を用いて、無意識に抑え込んでいるものの言語化を促すことで、患者の治療を行なっていきました。
フロイトの没後は、アンナ・フロイト(Freud,A)や、メラニー・クライン(Klein,M)たちが防衛機制の在り方や種類などについて、理論を発展させていきました。

※ 自由連想法…カウチに横になりながら、頭の中で思い浮かんだことをそのまま自由に語ってもらう技法のこと。

防衛機制の種類

いくつかの防衛機制についてご紹介していきたいと思います。

投影

受け入れられない自分の悪い所や感情などを、相手に映し出してしまうことを「投影(Projection)」といいます。
そのため、本当は自分のことであったり、自分が思っていることであったりするのに、相手がそうであるかのように感じてしまいます。
例えば、本心では「自分がAさんのことを嫌い」なのに、「Aさんから嫌われている」と感じてしまうこと等があります。

同一化

親や先生、友人など周りの人の考えや行動の中で、自分にとって良いと思える所を取り入れていくことを「同一化(Identification)」といいます。
幼少期には、自分にとって「良い」か「悪い」かにかかわらず、両親やそれに近しい養育者などの価値観を取り入れて成長していきます。
年齢が大きくなると、自分にとって良いと思えるものだけ取り入れていくようになっていきます。

否認

自分にとって不安になったり、腹が立ったりするような周囲の刺激や事実に対して、気付かないように避けることを「否認(Denial)」といいます。
それに気づいてしまうと、こころが不安定になってしまうので、見ないようにする、あるいは、ないかのようにします。
なので、問題や事柄が間近で起こっていたとしても、本人は気付いていないということがあります。

反動形成

「本当に思っていること」や「やりたいこと」とは反対の言動を取ることを「反動形成(Reaction formation)」といいます。
例えば、嫌いな相手に対して、友好的に接することや、自分のだらしなさを隠すために、綺麗好きになるなどがあげられます。
この防衛機制は適度に働いていれば、とても社会的に適した防衛であるといえます。

置き換え

自分の欲求を満たすために、欲求を向ける相手や表現の方法を別のものに置き換えることを「置き換え(Displacement)」いいます。
例えば、親と喧嘩してイライラしてしまい物に当たってしまうことや、気持ちを満たすために、過食や浪費をするということがあるでしょう。
本来の欲求を満たすことができなかったり、直接相手に気持ちを表現できなかったりする場合に、他のもので置き換えようとします。

退行

受け入れがたい欲求や感情に直面できず、自我の発達が逆戻りしてしまうことを「退行(Regression)」といいます。
例えば、ある程度成長した子どもが、赤ちゃんの頃のように戻る「赤ちゃん返り」は退行であり、何らかの原因によって不安が高まり、生じていると理解できます。
大人の場合でも、強いストレスによって退行が生じることがあります。
「テーマパークではしゃいで遊ぶ」のも退行の1つであり、幾分、退行することでそれらを楽しむことができます。

知性化

自分の欲求を知的活動に置き換えてエネルギーを消費したり、知的活動を通して欲求を表現したりすることを「知性化(Intellectualization)」といいます。
この防衛には、知識を増やし、物事を知的に考えていくことができるため、自身の欲求を置き換えて表現しつつ、周囲から評価され、満足感も得ることができます。
ですが、知性化が過剰になりすぎると、理屈っぽくなってしまうこともあります。

合理化

満たされない自分の欲求に対して、もっともらしい理由をつけて正当化し、自分を納得させることを「合理化(Rationalization)」といいます。
イソップ物語の『酸っぱいブドウ』に登場するキツネを例にあげてみましょう。
キツネは、高い所になっているブドウを取ることができず、「あのブドウは熟していないから、美味しくないはず」と言って、自分を納得させます。
このように、自分にとって都合の良い理由づけになり、言い訳や負け惜しみのようになってしまうこともあります。

抑圧

自分自身にとって受け入れがたい感情や欲求、記憶などを、無意識に抑え込んで気付かないようにしたり、忘れてしまったりすることを「抑圧(Repression)」といいます。
例えば、「過去にあった悲しい出来事について覚えていない」、あるいは、「乗り気ではなかった予定を無意識にすっぽかしてしまう」等があげられます。

昇華

本能的な欲求や衝動を、社会的に認められる活動や目標に向かってエネルギーとして使っていくことを「昇華(Sublimation)」といいます。
例えば、「芸術的な活動を通して自分の作品を作り上げる」ことや、「身体を鍛えてスポーツの試合に出場する」こと等があげられます。
この防衛は、「自我が十分に成熟している必要があり、健康的で、社会的に望ましい防衛であるとされています。


いかがでしたでしょうか。
いくつかの防衛機制についてご紹介させていただきました。
誰もが皆、さまざまな防衛機制を使って、こころのバランスを取っています。
防衛機制とは、大なり、小なり、誰でも自然にいくつかの種類を使っているものなのです。
ですか、特定の防衛機制に頼りすぎてしまったり、自我機能が低下し防衛機制が上手く働かなくなったりするとこころのバランスが保てず、心身などに症状が現れてしまうこともあるでしょう。

精神分析的心理療法では、自分のなかにある防衛機制を理解したり、防衛されている無意識の欲求や不安に意識を向けたりすることで、より深い自己探索を進めていきます。
自分自身の防衛を理解したいという方は、当研究所でカウンセリングを受けてみませんか。

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