マインドフルネス(Mindfulness)

マインドフルネスとは?

マインドフルネスは、元々その定義の曖昧さ(技法なのか、実践プログラムなのか、状態なのか等)の問題が指摘されている言葉ですが、この言葉の普及のきっかけとなったマサチューセッツ大学のジョン・カバットジン(Jon Kabat-Zinn)博士の説明によれば、「注意を払う特定の方法で、意図的であり、現時点に焦点を定め、価値判断を下さない」ことであるとされます。

そして、このマインドフルネスの考え方を取り入れた『マインドフルネス瞑想』やそこから派生したプログラム全般を、単に「マインドフルネス」と呼ぶこともあります。

マインドフルネスは米国で大きなブームとなり、その流行にはGoogleやApple、スティーブ・ジョブズ、フォード社、有名スポーツ選手といった大手企業や著名人が取り組んだことも大きく影響しています。
また、アメリカ心理学会(APA)がマインドフルネスの特集号を組むなど、学術的にも効果が認められるようになりました。

マインドフルネスのルーツ

マインドフルネスという言葉は、上座部仏教(テーラワーダ)における八正道(涅槃に至るための徳目)の第7徳目、「正念」(パーリ語でサティ)に由来し、単に「気づき」と訳されることもあります。
日本では元々「念」として知られていましたが、「マインドフルネス」という別の概念と見なされるようになりました。

米国で仏教が広まる中で、ジョン・カバットジン博士はその中で用いられていた瞑想という方法に着目し、より万人に受け入れられるよう宗教性を取り除いた形で「マインドフルネスストレス低減法(Mindfulness-based stress reduction:MBSR)」、「マインドフルネス認知療法(Mindfulness-based cognitive therapy:MBCT)」を提唱、実践しました。

マインドフルネスの効果

元々疼痛などの身体的ストレスの軽減に効果があるとされていたところから、うつ病や不安障害、摂食障害といった精神疾患へ応用されました。
そこからさらに、怒りや否定的な考えといった情動や認知のコントロール、注意集中や記憶力、洞察力、仕事のパフォーマンスのアップといった日常生活における能力や態度、姿勢にも効果があることが、科学的に裏付けられる研究結果が発表されるようになりました。

マインドフルネスのエビデンス

マインドフルネスに関連する論文は、世界で2000年代以降から急激に増え、今や年間3万件以上も提出されています。効果の中で指摘されるのは、例えば、『注意』をつかさどる大脳部位や『情動調整』を司る前頭前野とACC(前帯状皮質)の活性化、闘争・逃走反応を司る扁桃体の非活発化が挙げられます。
また「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」、すなわち意識的な活動を行わないときの
脳内の活動(ぼんやりしている時に過去・現在・未来のことになんとなく思いを巡らせるなど)を
鎮めることができると言われています。
これはよく車のアイドリングに例えられますが、何もしていない時でも脳は活動しており(休んでいるはずなのに、疲れたまま)、これを抑制することで深い集中が得られるとされています。

マインドフルネスの方法

上記の通り、マインドフルネスの普及には科学的根拠の提示が背景としてあり、またそのためには脱仏教化が必要不可欠な要素でもありました。
しかし元々は仏教的ライフスタイルとしてのマインドフルネスは長年に渡って実践されてきたものであり、一方でセラピーとして臨床に応用されてきたという側面があります。
ここでは仏教的説明は割愛し、実践の部分に焦点を当てます。

例えば、『マインドフルネスストレス低減法』では「三分間呼吸法」、「食べる瞑想」、「腹式(横隔膜)呼吸法」、「静座瞑想法」、「ボディー・スキャン」、「ヨーガ」、「歩行瞑想法」といった方法が紹介されています。すべてに共通しているのは、『注意を集中させる』ことで、ボディー・スキャンの際には目を閉じて体の一点に注意を集中し、歩行瞑想であれば一歩一歩の感覚に注意を集中し、自分の行っている行為を逃さないように感じ取ります。

そして、ブッダの時代から受け継がれているとされる『ヴィパッサナー瞑想』でもやはり「物事をありのままに見る」を目的とし、例えばゆっくりと歩きながら「左足、上げます、運びます、降ろします、右足、上げます、運びます、降ろします…」と身体を動かしながら集中しようとします。

いずれにせよ、「今、ここで」の体験に気づき、それを「あるがまま」に受け入れていきます。
「何かに注意を向ける」という積極的な気づきであり、「何かに注意が向いた」という受け身の活動ではありません。また、頭の中に「何も思い浮かばなくなる」ことはなく、思い浮かんではそれを手放していくことが重要となります。
マインドフルネスは「リラクセーション」ではなく、真剣な試みであると言えます。

まとめ

「瞑想」と言うと日本人にとっては「あやしい」ものであったものが、「マインドフルネス」という形でその方法論の有効性が認められることで、最近ではとても広く取り入れられるようになっています。
ただ、方法としては決して難解なものではないものの、挫折する人が多いのも事実です。
「怖い」、「実感できない」ことから諦めてしまうこともあれば、「よくわからない」まま段々と実践しなくなってしまうこともあります。
ある程度、指導者やセラピストの元で練習をすることが必要となることがほとんどだと言えます。

書籍紹介

◎ ジョン・カバットジン(著)『マインドフルネスストレス低減法』北大路書房

記事の中でも紹介した文献ですが、“マインドフルネス”という言葉の定義や方法について、その提唱者が解説した書籍です。専門職でマインドフルネスを勉強する際にはひとまずおさえておきない一冊。

◎ 大谷 彰 (著)『マインドフルネス入門講義』(金剛出版)

海外で活躍され、瞑想や催眠、マインドフルネスの大家である大谷先生の著書。先生の心理臨床学会での講演は大盛況で、科学的な視点と宗教の視点を非常にバランス良く持たれており、大変参考になります。

◎ 伊藤絵美(著)『ケアする人も楽になる マインドフルネス&スキーマ療法 BOOK1』(医学書院)

非常に読みやすく、支援者、被支援者どちらの立場でも勉強になる書籍。事例を通してマインドフルネスの基本的な内容とその流れを知ることができる良書です。

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