注意欠如・多動性障害/注意欠如・多動症(Attention-deficit hyperactivity disorder、ADHD)

ADHDの診断

注意欠陥・多動性障害と翻訳されていましたが、DSM-5からは「注意欠如」となりました。
①不注意、②多動性、③衝動性が特徴です。
日常場面では、食事中や授業中などじっとしていなければならない時でも動き回ってしまう、座っていても常に身体の一部が動いている、忘れ物が多い、ケアレスミスが多い、整理整頓ができないといった特徴が表れます。
こうした特徴により、社会生活に支障をきたしている場合に診断となります。
また、これらが早期(6歳以前)からあり、6か月以上継続していることで診断ことも診断基準にあります。
ただし、DSM-5では、この診断が12歳以上に上がりました。

さらに、①不注意が優勢で、②多動性や③衝動性が少ない人を「不注意優勢型」、②多動性と③衝動性が優勢で、①不注意が少ない人を「多動衝動優勢型」、①~③すべてが混在している人を「混合型」と言います。
DSM-5ではなくなりましたが、複数のタイプがあるという理解は有効でしょう。
不注意優勢型は女性に多いとされ、多動衝動優勢型は男性に多いと言われています。
さらに、②多動性は思春期ころまでに約30%の人が改善すると言われており、
成人期には①不注意だけが残っている方もおられます。
また成人期になると、②多動性の表出が、身体全体の動きから言葉にうつっていく方もおられ、その場合、多弁や大声になります。
このように、ADHDは大人と子どもとでは様相が異なることも多いです。
大人になってから発症するということはありませんが、子どもの頃は「活発な子」で済まされていたことが、大人では許されなくなったり、一人暮らしや就職などの環境の変化によって特徴が表出されやすくなり、生きにくさを感じやすくなることはあります。
また、頭の中に次々と浮かぶものに注意を向ける方もおられます。
この場合は、周りからはボーっとしているように見えます。

ADHDの特徴

ADHDの方は、脳機能の選択的機能の処理が苦手です。選択的機能というのは、多くの情報から重要なこととそうでないことを判断して選別する機能です。
これが苦手な方は、優先順位をつけて取り組んだり、重要なところだけをピックアップしたりことが難しくなります。
また、ある作業中に音がするとそちらに注意が向き、肝心な作業が進まないといたことも起こりやすくなります。
片付けが苦手なのも、ある物を片付けようとすると他の物が目に付いたり、気になったりしてしまい、
その間に何をどこに片づけるつもりだったかがわからなくなってしまうということが起こるためです。
また、何から片づけると有効かを判断することも苦手なため、片づける順番を誤り、うまくいかずに諦めてしまうこともあります。

一方で、ADHDの方の発想力は非常に豊かであり、また行動力や積極性も高いです。
そのため、友達が多くいたり、話題の中心となりやすいです。それが仕事に活かされると、仕事をバリバリこなし、キャリアアップしていきます。

ADHDである有名人として、トーマス・エジソンや黒柳徹子、さかなクン、長嶋茂雄などがあげられます。

ADHDの原因

決定的な原因はないとされています。
遺伝要因は大きいという研究結果はあるものの、どの遺伝子かの特定等については明らかになっていません。
気が散るようなものを周囲に置かない、メモをとる等の環境調整によって症状が改善するため、環境要因もあるでしょう。
また、神経伝達物質の異常も推定されており、有病率は7~10%とされています。

脳の機能不全によって生じているという仮説も多くあります。
右前頭前皮質と呼ばれる注意をそらさずに我慢する部位や、大脳基底核の尾状核と淡蒼球と呼ばれる反射的な反応を抑える部位、動機づけに関わる小脳虫部と呼ばれる部位が健常児に比べて縮小していると言われています。

ADHDの治療

ADHDの人は、その特徴から、同じ失敗を繰り返したり、道路の飛び出しなど危険な行動がみられたり、衝動的にお友達に手が出たりと、叱責の対象となる行動を起こしやすいです。
そのため、幼少の頃から叱責される頻度が高くなり、自尊感情が下がり、自己否定になってしまうこともあり、大人への反抗的態度や非行に移ってしまうこともあります。

治療法としては、ドーパミンの伝達を助けるメチルフェニデート徐放剤と、ノルアドレナリンの伝達を助けるアトオキセチンとがありますが、それぞれ効果や副作用が異なるため、医師と相談しながら慎重に行う必要があります。
しかし薬物療法の前に、部屋をシンプルにする、目で見てわかるように箱に写真を貼りつける、簡単に片づけられるような工夫をする、教室の席を一番前にする、携帯のアラームを活用するなどの
環境調整することや、自分の特徴の理解、自分にあった工夫を理解するための心理教育、人と接するときに気を付けることなどを学ぶソーシャルスキルトレーニング等を行うことが有効です。

また、家族の関わりやサポートによっても改善の可能性がありますので、家族が子どもへの接し方を学ぶペアレント・トレーニングを受けることも重要です。
もしすでに自尊感情が下がっていたり自己否定が強い場合には、心理療法も有効となります。
また、衝動的に感情が爆発してしまい、怒鳴ったり物を壊したりしてしまう方にはアンガー・マネージメントが有効です。

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