トラウマ(trauma)

トラウマとは

トラウマは今やメディアやSNS等、日常生活の中で使われない日はないと言ってもよいほどよく耳にする言葉となりました。
最近ではレディ・ガガ(Lady Gaga)さんがレイプされた体験を告白し、話題になったことも記憶にある方もおられるかもしれません。
日本では1995年に起きた阪神・淡路大震災がきっかけとなり、被災者のメンタルヘルス・ケアの必要性が注目されましたが、その際にトラウマやPTSDといった言葉がメディアでも取り上げられました。

トラウマという概念自体は身体と精神を問わず、「生命の危機を伴う予期せぬ破局的体験による傷つき」を指します。
トラウマはギリシャ語で「傷」を意味しますが、フロイト(Sigmund Freud)が心の傷という意味で使用したことをきっかけに、現在でもそのように使われています。
我が国では心的外傷やPTSD(心的外傷後ストレス障害Post-Traumatic Stress Disorder)と同じ意味で使われることが多いです。

トラウマは大きく分けて単回性と複雑性に分けることができます。
・単回性:災害や事故など、身近な他者の生命の危機を体験
・複雑性:虐待やDVなど、日常的に反復(蓄積)された体験
子どもの時に体験したトラウマほど人格形成に大きく影響するため、根深い病理をもたらすこともあるといわれています。
医学的にはトラウマによる心的外傷体験を原因として生じるストレス症候群を、PTSDと呼びます。
症状は以下のようなものがあります。

トラウマの症状

1.心的外傷的出来事の後に始まる、その心的外傷的出来事に関連した侵入(再体験)症状
・心的外傷的出来事の反復的、不随意的、および侵入的で苦痛な記憶
(6歳を超える子どもの場合、心的外傷的出来事の主題または側面が表現された遊びを繰り返すことがあり、これをポストトラウマティックプレイと呼びます)
・反復的で苦痛な夢
(子どもの場合、内容のはっきりしない恐ろしい夢のことがあります)
・心的外傷的出来事が再び起こっているように感じる、またはそのように行動する解離症状(例:フラッシュバック)
・心的外傷的出来事の側面を象徴するまたはそれに類似する、内的または外的なきっかけに曝露された際の強烈なまたは遷延する心理的苦痛やそのきっかけに対する顕著な生理学的反応(動悸、発汗など)。

2. 心的外傷的出来事に関連する刺激の持続的回避症状
・心的外傷的出来事に関連する苦痛な記憶、思考、または感情の回避、または回避しようとする努力
 を呼び起こすことに結びつくものを回避しようとする努力。

3.心的外傷的出来事に関連した認知と気分の陰性の変化
・心的外傷的出来事の重要な側面の想起不能。
・自分自身や他者、世界に対する持続的で過剰に否定的な信念や予想。
・自分自身や他者への非難につながる、心的外傷的出来事の原因や結果についての持続的でゆがんだ認識。
・持続的な陰性の感情状態。
・重要な活動への関心または参加の著しい減退。
・他者から孤立している、または疎遠になっている感覚。
・陽性の過剰を体験することが持続的にできないこと(例:幸福や満足、愛情を感じることができない)。

4.診断ガイドラインと関連した、覚醒度と反応性の著しい変化。
・人や物に対する言語的または肉体的な攻撃性で通常示される、いらだたしさと激しい怒り。
・無謀なまたは自己破壊的な行動
・過度の警戒心
・過剰な驚愕反応
・集中困難
・睡眠障害  これらの他に離人感や現実感消失が持続的に現れることもあります。  このような症状が1ヵ月以上持続し、それにより顕著な苦痛感や、社会生活や日常生活の機能に支障をきたしている場合、医学的にPTSDと診断されます(尚、6歳以下の子どもについては別の基準が設けられています)。外傷的出来事から4週間以内の場合には『急性ストレス障害Acute Stress Disorder: ASD』の基準が設けられており、PTSDとは区別されています。トラウマ体験をもつ人の2~8%がPTSDを発症すると考えられています。

トラウマの治療

薬物療法はPTSDやトラウマに伴う不眠や不安、うつなどの症状に対して使用されることがありますが、トラウマそのものには多くの効果が認めらないことが多いとされています。
そのため最近では持続暴露療法(prolonged exposure therapy;PE)、トラウマ体験についての認知を扱う認知処理療法(cognitive processing therapy;CPT)や、眼球運動を用いた眼球運動脱感作療法(Eye-Movement Desensitization and Reprocessing;EMDR)などの心理療法的なアプローチが有効とされています。
尚、ひとつのトラウマ体験を治療する中で、より早期のトラウマ体験を治療する必要性が出てくる場合もあります。

心理療法的アプローチは訓練を受けた専門家によって行われ、また、その治療状況が安全であることを当事者がよく理解した上で実施されます。
ただ、強引に「過去の出来事を思い出す、向き合う」だけでは、かえって苦痛が強まることにもなりかねません。
必ず知識と経験のある専門家にご相談ください。

当研究所でEMDRのトレーニングを受けたカウンセラーが在籍しています。

書籍紹介

◎ 白川 美也子 (著)『赤ずきんとオオカミのトラウマ・ケア: 自分を愛する力を取り戻す〔心理教育〕の本』(アスク・ヒューマン・ケア)

トラウマを抱えておられる方やその周りの方々に読んでいただきたい一冊です。
分かりやすく丁寧にトラウマの説明やそのケアの方法について書かれています。 知識をつけるだけでもケアになります。

◎ アナ M. ゴメス (著), 市井 雅哉 (監訳)『こわかったあの日に バイバイ! : トラウマとEMDRのことがわかる本』東京書籍

EMDRについて一般向けに書かれた数少ない書籍のひとつ。漢字にふりがなが振られていたりと、子どもでも読めるように工夫されています。また、自然な日本語訳で読みやすいです。

◎ 細澤 仁 (著)『心的外傷の治療技法』みすず書房

医療従事者など専門職向け。精神科医の著者が治療場面で出会った事例を多く載せています。トラウマを抱える患者をどう理解したらいいかのヒントになります。

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