「投影(Projection)」と「投影同一視(Projective identification)」はいずれも防衛機制の中の1つですが、この2つの防衛機制は似通っていて、メカニズムも複雑です。こちらのページでは、それぞれの特徴について説明させていただきます。
投影(Projection)とは
投影とは、ジークムント・フロイトが提唱した防衛機制の1つで、「受け入れられない自分の感情や不快なもの、あるいは自分の悪い部分などを相手に映し出して、相手が持っていると思い込むこと」をいいます。
そのため、本当は自分自身のことであったり、自分が思っていることであったりするのだけれども、そうしたものが自分の中にあることが受け入れられないがために、相手が持っていると思い込むことで安心しようとしているのです。
例えば、自分自身が欠点だと感じている部分を相手に投影し、「Aさんの○○なところが嫌いだ」と感じるのです。その他にも、「Bさんは私のことを評価してくれない」という思い込みが、実は自分が自分自身に正当な評価をしていないことの投影であったりします。
こうした投影は否定的な感情だけでなく、肯定的な感情にも起こり得ます。自分が好意を相手に投影し、「私のことを好きだと思っている(に違いない)」と想像し、期待を膨らませることもあるでしょう。
いずれにしても投影は生活場面でもよく起こるものであり、相手に対する勝手な思い込みや想像などに現れやすいといえます。
病的な投影
投影は日常生活の中でよく見られる健康的なものから、日常生活や人間関係に支障が出てしまうような病的なものまで、さまざまなレベルのものがあります。
病的な投影は原始的防衛機制に分類され、未熟な自我の防衛の在り方とされています。
相手や物事には、良いところもあれば、悪いところもあるものですが、こころの中でそうした両側面を上手く統合することができないと、『良い』か『悪い』かのどちらかを相手に映し出してしまうことがあります。
例えば『良い』対象を相手に投影した時には、過度に相手を理想化することになり、無条件に相手が素晴らしい人だと思い込んで尊敬したり、好意を抱いたりします。
反対に『悪い』対象を相手に投影した時は、自分を傷つけてくる人物として恐れたりもします。
このように病的な投影は、この人は「良い人だ」、この人は「悪い人だ」というように極端に区別してしまったり、良い人だと思い込んでいた人の中に悪い部分が見えてくると、「良い人」から「悪い人」へと急激に評価を下げしてしまったりすることがあります。
『良い』か『悪い』に限局されてしまうことで、相手に対する評価が極端に揺れ動いてしまい、安定した人間関係が築きにくくなってしまう要因になることもあります。
投影同一視(Projective identification)とは
投影同一視はメラニー・クラインが提唱した概念です。投影同一視とは、「受け入れられない自分の感情や不快なもの、あるいは自分の悪い部分などを相手に映し出して、相手が持っていると思い込み(投影)、そしてさらに相手に投影したものに同一化すること」をいいます。ですので、投影同一化と呼ばれることもあります。
例えば、自身の投影により「私はAさんに嫌われている」と感じたとしましょう。
Aさんに投影した感情に同一化すると、「私のことを嫌いなAさんなんて、私も嫌いだ」となるのです。
このように投影同一視によってAさんへの敵対意識を強めてしまうことがあります。
ですが、よく知らない相手に対して、「なんだか気が合わないな」と感じて初めは苦手意識を持っていても、実際に交流していく内に相手の人となりが分かり、親交が深まることもよくあることかと思います。
このように、相手とのやりとりを通して自分の思い込みに気付き、相手とのコミュニケーションを修正していくことができる投影同一視もあります。
病的な投影同一視
病的な投影同一視は病的な投影を経て起こり、人間関係に支障を与えてしまうこともあります。
例えば、『良い』対象を相手に投影した場合は、相手に対して敬意や好意を過剰に抱き、実際に献身的に尽くしたり、表立って讃えたりするなど、あからさまな行動をしまうことがあります。
その反対に『悪い』対象を相手に投影した場合は、相手が自分を脅かす恐ろしい人物に感じたり、敵意を向けられていると感じてしまったりして、「私のことを攻撃するのであれば、私もやってやる」と考えて、投影した相手に攻撃を向けてしまうので、関係性を自分で破壊してしまうことにもなります。
いずれにしても自分の投影したものに同一化しているため、第三者から見ると度が過ぎた行動に感じられ、周囲から距離を取られてしまう要因になることもあります。
このように投影や投影同一視には、相手とのやりとりの中で、思い込みに気付いて後のコミュニケーションを修正ができるものから、自分と相手との関係性をひどく悪化させてしまうものまであり、程度の違いによって生じてくる問題は大きく異なります。
自分が生活の中でどのように投影や投影同一視を用いているのか、それが気になることや困り事とどのように結びついているのかを分析してみたい方は、当研究所でカウンセリングを受けてみませんか。