アルコール依存症とは
アルコール依存とは、アルコールに対して、身体的、精神的、そして薬理学的な依存性を獲得してしまった状態を指しています。
これは、単なるお酒好きとは異なっており、世界保健機構(WHO)が発表している国際疾病分類ICD-10では、依存症候群について以下のように定義されています。
「ある物質の反復使用の後に起こってくる一群の生理的、行動的、認知的現象で、その物質の使用が、
その人にとって以前にはより大きな価値をもっていた他の行動よりはるかに優先するようになる現象」。
アルコール依存症の診断基準
一方、アメリカの精神医学会が出版している精神障害の診断と統計マニュアルであるDSM-5では、
「アルコール使用障害」という診断基準があり、以下の2つ以上が12ヵ月以内に起きるとされています。
・アルコールを得、使用するため、そこから回復するために多くの時間を費やす。
・意図するよりも大量、または長期間に使用している。・渇望している。
・社会的、対人的な問題が生じ、悪化しているにもかかわらず使用を続ける。
・私用のために、社会的、職業的、娯楽的活動を放棄し、縮小している。
・使用を減らし、制限しようとするも、成功しない。
・身体的に危険な状況でも使用を反復している。
・身体的、精神的問題が悪化していると感じていても使用を続けている。
・耐性がある。
・反復的な使用により、職場・学校・家庭で責任を果たせない。
・離脱症状がある。
アルコール依存症の要因
元々、「お酒が強いかどうか」については、アセトアルデヒド(体内に取り込まれたアルコールが分解されたもの)という物質を分解する能力が高いかどうかによって決まっており、その能力はALDH2活性型と呼ばれる遺伝子が決定します。
ただ、飲酒が習慣化してくると、元々のお酒の強い/弱いに関わらず、アルコールに対する耐性がつき始めます。
すると、同じ量のアルコールを摂取しても酔った感じがしなくなり、飲酒量が増え、飲む時間も増えていくのです。
そして、ほとんど毎日お酒を飲み、お酒がないともの足りなく感じる、あるいは緊張をほぐすのにお酒が必要だと感じるようになる。こうした精神依存と呼ばれるものがまず生じ、ブラックアウト(記憶の欠落)が起き、日常生活における飲酒行動の優先度が高くなっていきます。
次に、身体依存が生じてきます。
お酒が切れると、軽い離脱症状(発汗、不眠、微熱、下痢)が起き、そのことも本人は風邪か体調不良かと思い、自覚できません。
飲酒していない時間は落ち着かず、イライラすることも多くなります。
その後、アルコールが体内に入っていないと強い離脱症状(手や全身の震え、発汗、不眠、吐き気、
嘔吐、血圧上昇、不整脈、イライラ感、集中力低下、幻覚、幻聴など)が生じてきて、離脱症状を抑えるための飲酒も生じてきます。
また、病気や怪我、遅刻、欠勤、判断ミスなど、お酒が元となる問題行動が出てきて、飲酒運転で検挙される場合もあります。
自分でも自分の行動をコントロールができない状態にあり、家族や職場からの注意や説得に耳を貸すことも難しくなります。
そのため、自責感や自己嫌悪も生じていきます。
さらに進行すると、脳の縮小や損傷から、思考障害が生じ、理解力、判断力、記憶力が低下していきます。
最終的に終日の飲酒行動、家庭は経済的問題や、別居・離婚などの問題に直面し、仕事は退職せざるをえず、経済的困窮に至る場合もあります。
なお、背景には本人の問題だけではなく、共依存の問題もあると言われており、本人が飲み続ける状況を可能にする行為のことをイネイブリング、その行為をする人をイネイブラーとよびます。
朝に二日酔いで起きることのできない本人の代わりに会社に電話をする、お酒が元になるトラブルを本人の代わりに解決する、などの行為がそれに該当します。
この仕組みを知らないと、周囲が本人の飲酒を止めたくても、止める行為が結果的に本人の飲酒行為を助長してしまう悪循環に陥ることがあるのです。
アルコール依存症の治療
アルコール依存の治療のためには、断酒が不可欠ですが、離脱症状や再飲酒の強烈な誘惑から独力で行うことは相当困難です。
まずは本人の断酒の意思が前提となります。
大切な人間関係や仕事を失うことで、いよいよ本人が「このままでは体験名ことになる」と意識する
「底つき体験」がその契機になると言われています。
医学的治療では、医療機関(精神科、アルコール依存を専門とする医療機関)における薬物を併用した治療が行われます。
断酒をしてすぐの急性期には、離脱症状や不安感、睡眠障害が生じることがあるため、必要に応じて抗酒薬や抗不安薬、睡眠薬などが使用されます。
その後は、継続的な断酒のために、飲酒によって引き起こされている問題が何であるかを把握し、
アルコール依存症に関しての理解を深める必要があります。同じ問題を抱えた当事者が集まる自助グループがあり、
グループに参加することで長期的な再発防止につながると言われています。
有名なものに、AA(アルコホーリクス・アノニマス)やアラノンがあります。
なお、本人が自分の問題に気付くために、家族や周囲の人間がアルコール依存に対する
正しい知識や対応法を学ぶことも重要です。アルコール依存であるかどうか、
アルコール依存にともなう心理的問題の整理や解決のために、認知行動療法などの心理療法の併用をする場合もあります。